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市川猿之助のライフワーク 猿翁十種の内『黒塚』上演中! 

4月2日から東京・歌舞伎座で好評上演中の「四月大歌舞伎」(26日まで)。ラインナップの1つである夜の部の『黒塚』は、有名な「安逹原の鬼婆」伝説をモチーフにした舞踊劇。二代目市川猿之助(今の猿之助の曽祖父)によって昭和14(1939)年に初演されて以来、三代目市川猿之助(現猿翁)、当代猿之助と手がけている家の芸で、今年で誕生から80年目を迎える作品だ。

【あらすじ】

阿闍梨祐慶(中村錦之助)は、弟子の山伏大和坊(中村種之助)・讃岐坊(中村鷹之資)、太郎吾(市川猿弥)とともに諸国行脚の道中。ある晩、奥州安達原で、老女・岩手(猿之助)に一夜の宿を請います。一行をもてなすなか、不幸な身の上を語る岩手でしたが、祐慶の言葉に心を救われます。決して一間を覗かぬよう固く言いつけ、薪を取りに山へ出かける岩手。その一間に隠された秘密とは…。

 

真っ暗な場内。緞帳が開くと、暗闇に少しずつ明かりがさし、見渡す限り芒(すすき)の生い茂る平原が姿を現す。そこにポツリと佇む粗末な小屋。簾には灯火で人影が照らし出され、シルエットだけなら髪を束ねた若い女性のようにも見える。そこへ、予想していたより早い日没で途方に暮れる阿闍梨祐慶の一行がさしかかり、見つけた人家に一夜の宿を頼む。そこからいよいよ物語に入っていく。

猿之助が岩手を演じるのは、襲名披露公演で初演してから今回で6度目。能装束のような衣裳に、薄くなった総白髪、深い皺に年輪を感じさせるが、荒野にありながら教養と育ちの良さが滲み、只者ではない気配を漂わせる。

枠桛輪(わっかせわ)という糸繰り道具を扱いながら、流罪となった父と共に都から奥州へ下ったが、自分を捨て都に残った夫を恨み、絶望のなか、この安達原で独り長い年月を送ってきたと、涙ながらに語る。

だが、仏の教えで悟りの道に入ればどんな罪人も成仏できるという祐慶の教えによって、これまでの罪業と絶望から解放されると知り、野原で喜びの舞を舞う。その踊りが本作の大きな見どころで、年老いて背は丸まり足腰は痛むが、そのままならない動きのなかに抑えきれない喜びが爆発する。小さなスキップのような足の運び。一本の木立が月明かりに伸ばしている影とじゃれあうように、楽しく踊る岩手。その動きに魅せられ、観客も岩手の心に寄り添いたくなるのは、研鑽を積んだ猿之助の舞踊の豊かな表現力によるものだろう。

そこから一転、祐慶一行と鬼女の姿となった岩手との対決は、いかにも歌舞伎!というようなケレン味があふれている。鮮やかな隈取と衣裳で、豪快で派手な動きを見せ、パワフルな立廻りを見せる。

そして幕切れ、我が身の浅ましさを恥じた鬼女が姿を消す。苦悩と孤独のなかで、心に巣食う鬼にすべてを侵食されてしまったかのような岩手の姿に、哀れを感じずにはいられない胸に迫るラストシーンだ。

猿之助が「一生をかけて追求していきたい」という舞踊劇。日々深化するその様を追いかけていきたくなるような作品である。

 

夜の部は、この『黒塚』のほかに2作品が上演されている。

幕開きの『実盛物語』は、平家に仕えながらも源氏に忠義を尽くそうとする智勇兼備の武将・斎藤実盛の生き様を描く時代物の傑作。実盛を仁左衛門が12年ぶりに勤めるとともに、若手花形の中村米吉が葵御前に、寺嶋眞秀が太郎吉にそれぞれ初役で挑んでいる。

『二人夕霧』は、なじみの遊女・夕霧に先立たれた大店の若旦那・伊左衛門が二代目夕霧と所帯を持ち、傾城買の指南所を開いて暮らしているところへ死んだはずの夕霧が現れ…というコメディタッチの舞踊劇。柔らかみのある上方和事の役・伊左衛門を中村鴈治郎が、先の夕霧を中村魁春、後(二代目)の夕霧を片岡孝太郎が演じている。

 

〈公演情報〉

「四月大歌舞伎」

[昼の部] 11:00~

『平成代名残絵巻』『新版歌祭文』『寿栄藤末廣』『御存鈴ヶ森』

[夜の部] 16:30~

『源平布引滝 実盛物語』『黒塚』『二人夕霧』

出演◇坂田藤十郎 尾上菊五郎 中村吉右衛門 片岡仁左衛門 中村時蔵 中村雀右衛門 中村鴈治郎 中村福助 市川猿之助 ほか

●4/2~26◎歌舞伎座

〈料金〉1等席18,000円 2等席14,000円 3階A席6,000円 3階B席4,000円 1階桟敷席20,000円(全席指定・税込)

〈一幕見料金〉『平成代名残絵巻』600円 『新版歌祭文』1,800円 『寿栄藤末廣』600円 『御存鈴ヶ森』1,000円 『源平布引滝 実盛物語』1,500円 『黒塚』1,400円 『二人夕霧』1,100円(すべて税込)

※『黒塚』の発売予定時間は、16:45頃~(上演時間は、18:25~19:38予定)

一幕見席について(松竹HP) https://www.kabuki-bito.jp/news/5358

〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489または03-6745-0888

 

【取材・文/内河 文 写真提供/松竹】

 

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